整体院の広告に「治る」と書けない理由 — 規制の対象外でも自由ではない

「医療機関ではない」から始まる誤解
医療機関のホームページには、医療広告ガイドラインという規制がかかります。患者の体験談は載せられない、ビフォーアフター写真には条件がある、「日本一」とは書けない。詳しくは別の記事に書きました。
では整体院はどうか。結論から言えば、医療広告ガイドラインの対象ではありません。整体院は医療機関ではないからです。
ここで「では自由に書けるのか」と考えたくなりますが、そうはなりません。規制の入口が違うだけで、出口では別の法律に当たります。しかも、業態によって効く法律が変わる。ここが分かりにくいところです。
まず整理すると、施術系の業態は大きく2つに分かれます。国家資格が要る業態——接骨院・整骨院(柔道整復師)、鍼灸院(はり師・きゅう師)、あん摩マッサージ指圧。そして国家資格が要らない業態——いわゆる整体院、カイロプラクティック、リラクゼーション。
そして意外に思われるかもしれませんが、厳しく縛られているのは国家資格が要る側です。
接骨院は「書けることしかない」
接骨院・整骨院の広告は、柔道整復師法という法律で決まっています。
その第24条は、広告してよい事項を列挙して、それ以外を禁止するという形をとっています。列挙されているのは4つ。柔道整復師である旨と氏名・住所。施術所の名称・電話番号・所在地。施術日または施術時間。そして厚生労働大臣が指定する事項(ほねつぎ・接骨、届出をした旨、療養費の支給申請ができる旨、予約、休日夜間、出張、駐車設備など)。
つまりこの枠の外にあるものは、原則として書けません。
そして同条の第2項に、さらに踏み込んだ規定があります。上の事項を広告する場合でも、その内容は「技能、施術方法又は経歴に関する事項にわたってはならない」。
これが何を意味するか。どんな施術をしているか、どんな腕前か、どんな経歴かは、そもそも書けないということです。「独自の骨盤矯正」も「経験20年のベテランが施術」も「肩こりが楽になります」も、この枠に入りません。
医療機関のほうが厳しいと思われがちですが、実は逆です。医療広告ガイドラインは「原則禁止だが、広告できる事項を定め、条件を満たせば一部を解除できる」という組み立てでした。接骨院には、その解除にあたる仕組みがありません。列挙されたものがすべてです。鍼灸院やあん摩マッサージ指圧も、あはき法という別の法律で同じように制限されています。
だから、医療機関のサイトを参考にして接骨院のページを作ると、それだけで枠を越えます。「当院で対応できる症状」「施術の流れ」「症例のご紹介」——医療機関なら条件つきで書ける項目が、接骨院では書けない。同じ業界に見えて、適用される法律が違うからです。
違反した場合は、柔道整復師法第30条で30万円以下の罰金という規定があります。
保険や交通事故に触れる場合も注意が要ります。接骨院で健康保険が使えるのは、外傷性の負傷など限られた場合です。だから「保険が使えます」とだけ書くと、どんな症状でも使えるように読めてしまう。条件を示さない表示は問題になりえます。交通事故の施術についても、扱える範囲と、自賠責保険で費用が補われる旨を、医業と誤認されない形で書く必要があります。
なお、「整骨院」という名称そのものについても、法律上の位置づけが明確でないとして議論が続いています。いま当たり前に使われている言葉が、この先変わる可能性はあります。
整体院は、規制の網から外れている
一方、国家資格の要らない整体院やカイロプラクティックは、柔道整復師法にもあはき法にも当てはまりません。
これは行政側も認識していることで、無資格者の行為については「あはき師法及び柔整師法において取り締まることが困難」と、厚生労働省が公の場で示しています。つまり、広告規制の直接の対象になっていないのが現状です。
では自由なのか。ここが本題です。
自由ではありません。別の法律が効いてきます。
医師法・医療法。医師でない者が医行為を行うことはできません。だから「治療」「診断」「医療」といった、医行為を連想させる言葉は使えない。国家資格を持つ接骨院や鍼灸院でさえ、「医療」という表現は望ましくないとされています。無資格ならなおさらです。
景品表示法。効果や効能をうたった表示は、根拠を求められます。消費者庁から資料の提出を求められて15日以内に出せなければ、違法と判断される仕組み(不実証広告規制)があります。「必ず改善します」「1回で変わります」といった表示は、この対象になりえます。
薬機法。医薬品や医療機器ではないものについて、医薬品的な効果効能をうたうことは認められません。「免疫力が上がる」「代謝がよくなる」「老化を防ぐ」といった表現が該当します。
整理すると、整体院は「広告規制の対象外」ではあっても、「何を書いてもいい」ではない。規制の網が緩いぶん、かえって踏みやすい構造になっています。
では、何なら書けるのか。ここが実務では大事なところです。
効果をうたえないだけで、事実は書けます。施術の時間と料金。予約の方法。営業時間と定休日。アクセスと駐車場。着替えの用意が要るかどうか。初めての人の流れ。施術者の資格や経歴(国家資格を持つ業態では制限がありますが、無資格の整体院では書けます)。院内の写真。どこまで着衣のままか。
そして実際のところ、来院を迷っている人がいちばん知りたいのは、この種の情報です。「何をされるのか分からない」「いくらかかるのか分からない」「痛いのか分からない」。効果の断定よりも、こうした不安が解消されるかどうかで選ばれています。
つまり規制は、発信を弱くするものではありません。断定という近道が塞がれているだけで、事実を丁寧に書く道は開いています。
「治る」は、知らない人が書く
ここからは、実際に見てきた話です。
「治る」という言葉は、あと一歩で使われそうになる場面が本当によくあります。私が関わっている整体院でも、危ういところまで行ったことがあります。
そして書こうとしていたのは、経営者ではありませんでした。現場のスタッフです。
これは責められることではありません。チラシやSNSの投稿は、現場の人が作ることが多い。そして、その人たちは広告の法律を学ぶ機会がありません。施術の勉強はしていても、薬機法や景品表示法の話は誰も教えてくれない。良いことを伝えようとして、そのまま書いてしまう。
つまり問題は、知らないことではなく、知らない人が発信できてしまう状態にあります。
しかも厄介なのは、書いた本人に自覚がないことです。「腰痛が治ります」は、施術者からすれば実際に良くなった人を見てきた実感の言葉かもしれません。嘘をつくつもりも、誇張するつもりもない。ただ、その一文が規制の側からどう見えるかを知らないだけです。
経営者が規制を理解していても、それだけでは足りません。発信する人が知らなければ、同じことが起きます。しかもSNSは投稿の瞬間に公開されるので、チェックが入る余地もない。
だから、必要なのは個人の注意ではなく院としての仕組みです。院内で研修の機会をつくる。書いてはいけない表現を1枚にまとめて共有する。SNSの投稿は誰かがもう1人見る。どれも大がかりなことではありませんが、これがないと、いつか誰かが書きます。
他社の広告は、反面教師になる
もうひとつ、日常でできることがあります。
他院のLPや広告を見ると、際どい表現はかなり見かけます。「◯◯が治る」「必ず改善」「たった1回で」。実際、探すまでもなく目に入ってきます。
ここで大事なのは、それを「あそこもやっているから大丈夫」と受け取らないことです。多く見かけるのは、規制が緩いからではなく、知らないまま出している院が多いからにすぎません。
代わりに、反面教師として使ってください。見かけたら、その場で自院を振り返る。「うちのチラシに同じ表現はないか」「SNSでこう書いていないか」。判断の物差しは、使わないと鈍ります。日々見ているうちに、際どい表現が普通に見えてくる。それが一番危ない状態です。
意識的に「これはアウトだな」と思う習慣をつけておくと、自院の発信を見る目も保てます。他社の広告は、無料の教材として使えます。
とくに危ないのは、同業の広告を見て「自分たちの発信は控えめすぎるのでは」と感じたときです。際どい表現が並ぶ中に事実だけを書いたページを置くと、地味に見えることがある。けれど、そこで合わせにいくと同じ側に立つことになります。比べる相手は他院の表現ではなく、規制の側に置いてください。
明日、できること
大がかりな体制づくりから始める必要はありません。
明日できることは、たった1つです。自院のチラシとSNSの直近の投稿を開いて、「治る」「治療」「必ず」「改善」という言葉が使われていないかを確認すること。
見つかったら、まず消してください。そのうえで、誰が書いたのかではなく、なぜ書けてしまったのかを見てください。書いた人を注意しても、次に別の人が同じことを書きます。チェックの仕組みがないことが原因なので、そこを直すほうが早い。
そして、発信に関わる人を集めて15分でいいので話す場をつくってください。「治る」「治療」は使わない。効果を断定しない。この2つを共有するだけでも、多くは防げます。紙1枚にまとめて貼っておくと、なお確実です。
もし、何をどこまで書いてよいか整理したい、あるいは発信の体制ごと相談したい場合は、整体院の立ち上げ・運営支援からお声がけください。
参考
- 柔道整復師法(第24条・第30条)
- あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律
- 消費者庁「不当景品類及び不当表示防止法」(不実証広告規制)
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)
施術所の広告に関する取り扱いは、厚生労働省の検討会で継続的に議論されています。本記事は執筆時点の内容にもとづく整理であり、規定そのものではありません。個別の表現の可否については、自治体の窓口や専門家にご確認ください。