「何を発信すればいいですか」——答えは、盛らない事実を発信です

コンテンツの話を書くのに、身も蓋もない事実から始めます。
500名以上の医療職に取材してきて分かったことです。求職者の8割は、求人票しか見ていない——そう思ってもらって差し支えありません。見ているのは、給料と休日数。ホームページのこだわりの文章も、SNSの投稿も、応募の段階ではほとんど読まれていません。
ひとつ先に断っておきます。この「8割」は、500名以上に取材してきた実感であって、調査でとった数字ではありません。盛らないことを書く記事なので、自分の数字も盛らないでおきます。
これが現実です。では、発信には意味がないのか。逆です。
応募は「条件」で決まり、入職は「雰囲気」で決まる
取材を重ねて見えてきたのは、求職者の意思決定が2段階に分かれていることです。
最初の応募を決めるのは、求人票です。給料、休日数、勤務時間。条件が合わなければ、そもそも応募されません。ここでホームページやSNSの出番は、ほとんどありません。
ところが、内定を承諾するかどうかは、まったく別の基準で決まります。職場の雰囲気。面接で話した相手の雰囲気。求職者は、そこを驚くほど敏感にキャッチしています。実際、給与や休日の条件が完全にマッチしていても、内定辞退はよく起きます。
つまり、こういうことです。条件で応募が決まり、人と雰囲気で入職が決まる。
看護師の応募が来ない本当の理由で「決め手は時間と人」と書きましたが、構造は同じです。条件は土俵に上がるための足切りで、決め手は最後まで人なのです。
ここで、ひとつ整理しておきます。「読まれない」のは、応募するかどうかを決める段階の話です。
応募したあと——面接の前、内定をもらったあと——になると、同じ人が今度は隅々まで読みます。「この職場で本当にいいのか」を確かめるためです。求人票には書いていないことを探しに来る。だから、そこに何もないと、確かめようがない。
つまり発信は、応募を増やすためではなく、応募したあとの人が最後に確かめる場所として効きます。採用を外注してはいけない理由で「ホームページは24時間、応募を検討している人に説明し続ける」と書いたのは、この時点のことです。
ここから、発信の原則を4つ書きます。
この2段階が分かると、発信の役割がはっきりします。
コンテンツは、応募を増やす道具ではありません。選ばれ、そして辞められないための道具です。
入職の決め手が雰囲気なら、その雰囲気を面接当日まで隠しておく理由はありません。事前に、正直に、見せておく。ホームページやSNSでやるべきことは、突き詰めればこれだけです。
まず、盛らないこと
だから発信の第一歩は、テクニックではありません。
何も隠さず、求人票に書き出すことです。
内容を過剰に書くのは、まったくの無意味です。それどころか、害になります。実態より良く見せた条件で入職した人は、「契約と違う」として早期離職につながるからです。採用はゴールではありません。その人が定着して、初めて採用は成功です。盛って採った1人は、すぐに辞める1人です。
これは比喩ではありません。法律がそう定めています。
労働基準法施行規則の第5条第2項は、明示しなければならない労働条件を「事実と異なるものとしてはならない」と定めています。そして労働基準法の第15条第2項は、明示された条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できるとしています。盛った条件で採った人は、辞める権利を最初から持っている。それが法の建て付けです。
数字にも出ています。労働政策研究・研修機構(JILPT)が2018年に行った調査では、入社3ヶ月以内に「労働時間の長さが入社前に聞いていた内容とは異なっていた」と答えた人が、離職した人で30.0%、勤め続けている人で14.7%(女性。離職者1,481人・勤続者1,036人)。ちょうど2倍の開きです。報告書はこう書いています。「入職前に得られた情報と実際の労働条件との間にズレが存在すると、若者の離職傾向は高まる」。
これは相関であって、因果の証明ではありません。報告書自身も「重要な要因である可能性」という書き方をしていますし、ウェブモニター調査で無作為抽出ではないことも明記されています。それでも、ズレがあった人ほど辞めているという関係は、はっきり出ています。
そして、これは他人事ではありません。厚生労働省が集計している「ハローワークの求人票の記載内容と、実際の労働条件が違う」という申出は、令和6年度に全国で3,297件。そのうち医療・福祉が725件で、20ある産業のなかで最も多い。しかも全体は前年から12.3%減っているのに、医療・福祉だけは687件から725件へ増えています。
内訳を見ると、「求人票の内容が実際と異なる」1,478件と「求人者の説明不足」932件を合わせた2,410件に対し、「求職者の誤解」は364件。6倍以上の差で、求人を出した側に原因があります。
これは苦情の件数であって、離職の統計ではありません。ハローワーク経由のものに限られてもいます。医療・福祉の求人がハローワークに多く出ていること自体が件数を押し上げている可能性もあるので、「医療・福祉がいちばん不誠実だ」とは読めません。それでも、盛りが現に起きていることは、この数字が示しています。
誰もやっていないコンテンツ——OB・OGの声
現在働いているスタッフのインタビューは、多くの職場が載せるようになりました。ただ、読む側も分かっています。在職中の人が、職場の本音をすべて語れるわけがない、と。
当社が効果的だと考えているのは、OB・OG——つまり、そこを辞めた人・巣立った人のインタビューです。
辞めた人が語る職場の話は、在職者の言葉より、はるかに信頼されます。「辞めた人にすら、こう言ってもらえる職場」——これ以上の証明は、なかなかありません。
当社のキャリア支援では、医療職のコミュニティを運営しているからこそ、求職者が、興味のある職場のOB・OGの医療職と直接話せる機会を作るようにしています。求職者が本当に知りたいのは、整えられた紹介文ではなく、そこで働いた人の本音だからです。
ただ、これは「やったほうがいい」と言うだけでは動きません。辞めた人に依頼するのは、気が重いからです。実務として3つだけ書いておきます。
誰に頼むか。円満に辞めた人から始めてください。退職の経緯が良くなかった人に最初から当たると、こちらも相手も傷つきます。「あの人なら」と思い浮かぶ顔が1人いれば、そこからで十分です。
何を聞くか。辞めた理由は聞かなくて構いません。聞くのは「在職中に良かったこと」と「次の職場と比べて、ここが違うと感じたこと」の2つです。前者は素直に出てきます。後者は、比較対象を持っている人にしか語れない、いちばん価値のある話です。
どう載せるか。実名でなくて構いません。「元・当院の看護師(現在は訪問看護に従事)」で十分伝わります。そして、悪いことも書いていいと、最初に伝えてください。良いことしか書かれていないOB・OGの声は、在職者インタビューと同じに読まれます。それでは、わざわざ辞めた人に頼んだ意味がありません。
その文章、よその求人票に貼れませんか
やりがちだけど響かない発信も、はっきりしています。
どこにでもある、ありきたりな求人内容です。「アットホームな職場です」「やりがいのある仕事です」——どの職場にも書ける言葉は、どの求職者にも刺さりません。
そして、いまはAIで文章がいくらでも量産できる時代です。整っているだけの文章の価値は、これからさらに下がっていきます。だからこそ、人間味が伝わる工夫が必要です。誰が働いていて、どんな空気で、何を大事にしているのか。その職場にしか書けないことだけが、読まれます。
では、どう書けば「その職場にしか書けない」ことになるのか。ひとつ、簡単なテストがあります。
書いた文章を、近所の別の事業所の求人票に貼ってみてください。そのまま成立するなら、それは固有の文章ではありません。「アットホームな職場です」も「やりがいのある仕事です」も、どこに貼っても成立してしまいます。
貼れなくなるものを入れれば、固有になります。固有名詞・数字・日付・人の名前です。「スタッフ12名、平均年齢38歳。いちばん長い人で9年目」——これは他所に貼れません。「訪問件数は1日4〜5件、移動は電動自転車です」——これも貼れません。貼れない文章だけが、その職場の文章です。
発信と、リアルの接点はセットです
もうひとつ、正直に書きます。オンラインの発信だけで、採用がうまくいくわけではありません。
当社の訪問看護ステーションの採用が回っているのは、発信に加えて、コミュニティとしてイベントを数多く開催し、外部のコミュニティとも協力体制を組んでいるからです。オンラインで知ってもらい、リアルで会って、雰囲気が伝わる。この両輪で、初めて機能します。
採用を外注してはいけない理由で、「紹介会社への100万円を、自社に投資すべきだ」と書きました。その投資先が、まさにこの発信とリアルの接点づくりです。
明日、できること
最後に、明日できることをひとつ。いま働いているスタッフを1人つかまえて、「入職してから驚いたこと」を3つ聞いてください。良いことでも悪いことでも構いません。メモを取って、そのまま載せる。それだけです。
「思っていたより人が優しかった」「思っていたより記録が多かった」「思っていたより早く帰れる日がある」——こういう文章は、よその求人票に貼れません。そして、盛られていないことが、読めば分かります。
なお、発信の器(ホームページやSNS)そのものが無いという場合は、何をどの順で見るかを採用を外注してはいけない理由に書きました。この記事で扱ったのは、器があるとして何を書くかのほうです。
求職者の8割は、求人票しか見ていません。それでも、入職を決めるのは雰囲気です。発信とは、その雰囲気を、盛らずに、事前に見せておくことです。
当社は、医療・介護の事業者向けにコンテンツ制作と採用広報の支援を行っています。書き方の支援もしますが、最初にお伝えするのは、いつも同じです。盛らないこと。それが、いちばん強いコンテンツです。
参考
- 労働基準法(第15条第2項 明示された労働条件が事実と相違する場合の即時解除)
- 労働基準法施行規則(第5条第2項 明示する労働条件を事実と異なるものとしてはならない)
条文はe-Gov法令検索で確認できます。法令や解釈は改正されることがあるため、実際の運用にあたっては最新の条文をご確認ください。本記事は執筆時点の整理です。