採用の母集団は、欠員が出る前につくっておく

探し始めてから探すと、間に合わない
欠員が出た。求人を出す。応募が来ない。媒体を増やす。紹介会社に頼む。
この流れの問題は、探し始めた時点で、選択肢が市場にあるものだけに限られていることです。そのとき転職を考えている人の中から選ぶしかない。しかも同じ人を、地域の他の法人も見ています。
一方で、いま転職を考えていない人のほうが、圧倒的に多いわけです。半年後に動くかもしれない人、いい話があれば考える人。この層は求人媒体には出てきません。
だから、探す前から知っている状態をどう作るかが問われます。採用は、募集をかけた瞬間に始まるものではない。
これは管理職の採用でも同じ構造でした。相手のタイミングはこちらで作れないので、タイミングが来たときに思い出してもらえる状態でいるしかない。
そして「知っている」ことの効果は、双方向です。
こちら側は、その人が現場でどう動く人かを知っています。書類や面接では分からないことが、何度か会っていれば見えている。相手側も同じで、うちがどういう職場かを、求人票以上に知っている状態で応募してきます。
この差は、入職後に出ます。「思っていたのと違った」が起きにくい。求人票と面接だけで判断して入った人と、何度か会って雰囲気を知ってから入った人では、最初の3ヶ月の落差がまったく違います。
紹介との違いは、母数を自分で作れること
前回書いたリファラル採用と、地続きの話です。ただし別物でもあります。
リファラルの母数は、いまいるスタッフの知り合いです。規模は自然に決まっていて、こちらで増やせません。動くのも一瞬——「心当たりある?」と聞いた瞬間に、出るか出ないかが決まります。
コミュニティは、母数を自分で作ります。時間はかかりますが、上限がない。そして関係が続くので、今日は動かない人が、1年後に動くことがあります。
医療・介護は、この形が効きやすい領域だと思っています。資格でつながる横のネットワークがあり、業界内での転職が多い。一度知り合えば、関係は切れにくい。
そしてもう1つ、費用の構造が変わります。
求人媒体も紹介会社も、採用のたびに費用が発生します。採れば採るほど積み上がる。一方、関係づくりにかかるのは主に時間で、一度作った関係は次の採用でも使えます。
ここは短期では逆転しません。最初の1〜2年は、時間をかけているのに成果が見えない期間になります。ただ、3年目以降で効いてくる。採用を続ける前提の組織ほど、早く始めたほうが得だという性質のものです。
採用目的が透けると、人は来ません
ここがいちばん大事なところです。
採用のためにコミュニティを作ると、うまくいきません。参加した人が「ここは勧誘の場だ」と感じた瞬間に、価値が消えるからです。そして一度そう思われたら、戻せません。
当社が運営している医療職の交流会も、採用のために始めたものではありません。医療職が職場の外でつながる場が少ない、という課題から始めたものです。月1回の開催を続けて、セミナーを含めると累計3,000名以上が参加してきました。
結果として、そこから一緒に働く人が出ています。ただそれは結果であって、目的ではない。この順序が逆になると機能しません。
もう少し踏み込むと、参加者にとっての価値が先にあるかどうかです。学びがある、人に会える、息抜きになる。その人が来る理由が成立していれば、運営側の意図は邪魔になりません。逆に、参加者側の価値が薄いまま「うちで働きませんか」が前に出ると、次から来なくなります。
だから、採用につながるまでの時間を許容できるかどうかが、始める前の分かれ目になります。
うまくいかない形も、だいたい決まっています。参加者が集まらない——これは、その場に来る理由が弱いだけです。担当者が辞めて終わる——属人的に回していると、こうなります。そして採用の話を出しすぎて人が離れる。
3つ目がいちばん多いと思います。半年やって成果が見えないと、焦りが出る。「そろそろ回収しないと」と思った瞬間に、場の空気が変わります。参加者はそれを敏感に察します。
大きな場を作る話ではありません
とはいえ、多くの医療機関にとって「コミュニティを運営する」は現実的ではないと思います。人も時間もかかります。
もっと小さい形で十分です。
見学会を定期的にやる。院内の勉強会を外部に開く。地域の多職種連携の場に、毎回同じ人が出る。実習生を受け入れる。SNSで現場のことを発信する。
どれも「知っている人を増やす活動」で、母集団形成そのものです。大きさではなく、続いているかどうかが効きます。
とくに実習生は、医療・介護では実用的だと思います。実習で来た学生が、数年後に応募する。接点から採用まで数年かかる典型で、この記事の主題をいちばん分かりやすく体現しています。そのときに「あの職場は良かった」と覚えているかどうかが、すべてです。
そして実習生は、学校にも印象を持ち帰ります。「あそこは丁寧に見てくれる」という評判は、教員経由で次の学生に伝わる。1人の実習生への対応が、数年分の母集団に影響することになります。
SNSでの発信も、同じ役割を持ちます。ただし採用広報として作り込む必要はありません。日々の様子が分かるだけで十分です。どんな人が働いていて、どんな空気なのか。求人票には絶対に載らない情報が、そこにあります。
そして、続かないと逆効果になります。勉強会を1回だけやって終わると、「あそこ、やめたんだ」という印象が残る。月1が難しければ、季節に1回でいい。頻度より継続です。
誰が出るかも決めておく必要があります。院長が全部やろうとすると、まず続きません。現場のスタッフが出るほうが、実は効きます。同じ立場の人の話のほうが伝わりますし、「あの人がいる職場なら」と思われるのは、経営者ではなく現場の人であることが多いからです。
何を話すかも、難しく考えなくていいと思います。うまくいっている話より、工夫していることのほうが聞かれます。「記録の負担をこう減らした」「新人の教育をこう変えた」。同じ悩みを持つ人にとっては、それが価値です。
逆に、採用の話を混ぜないこと。「うちは今こういう人を探していて」を最後に付け足すと、それまでの話が全部前振りに見えます。聞かれたら答える、くらいでちょうどいい。
効果が出るまでには、時間がかかります
正直に書いておきます。この方法に即効性はありません。
今月の欠員には効きません。「今すぐスタッフが欲しい」という状況で始めるものではない。効き始めるまで、年単位で見る必要があります。
だから、急ぎの採用は別の手段で埋めながら、こちらは並行して育てるという位置づけが現実的です。求人媒体も紹介会社も使いながら、同時に、探さなくても人が来る状態を作っていく。
当社のグループで運営している訪問看護ステーションでは、直近1年で応募8名から5名を採用しました。採用にかけた費用はありません。強みとして挙げられるのは2つで、医療職コミュニティを運営しているという事実と、役員2名が自分の言葉で伝えられることです。
前者は数年かけて積み上げたもので、急には作れません。けれど一度できると、募集を出さなくても人が集まる状態になります。
測り方についても触れておきます。この活動は、採用数では測れません。年に1人出るかどうかなので、数字が動くまで時間がかかりすぎる。
代わりに見るとしたら、「名前を知っている外部の人が増えているか」だと思います。去年より、連絡が取れる人が増えたか。何かあったときに相談できる相手が増えたか。採用の指標ではなく、関係の指標で見る。そうしないと、成果が出る前に続かなくなります。
明日、できること
コミュニティを作る必要はありません。
明日できることは、たった1つです。この1年で、自院の外の医療職と何人話しましたか。
数えてみてください。仕事で関わる人ではなく、採用と関係のない場で会った人です。ほとんどいないなら、そこが現在地になります。
そのうえで、すでにある機会を1つ選んでください。地域の連携会議、職能団体の集まり、勉強会。新しく作るより、あるものに出るほうが早い。そして一度で終わらせず、次も出る。顔を覚えられるまでには、3回はかかります。
出る人は、院長でなくて構いません。むしろ現場のスタッフに行ってもらうほうが、本人の学びにもなります。「行ってきて」と送り出せる体制があるかどうかが、続くかどうかを分けます。シフトの都合で毎回行けなくなるのが、いちばんよくある止まり方です。
そして、すぐに成果を求めないこと。1年目は何も起きません。それでも、去年より知っている人が増えていれば、進んでいます。
実習生を受け入れているなら、受け入れ方を見直すのも効きます。「人手として扱わない」「担当を決める」「最終日に感想を聞く」。数年後に応募先の候補として思い出してもらえるかは、この期間の記憶で決まります。
どれも、採用のためにやることではありません。地域の中で、まともに関わっているというだけのことです。それが結果として母集団になる。順序を逆にしないことが、この方法の唯一のコツだと思っています。
もし、コミュニティの立ち上げや運営を一緒に考えたい場合は、コミュニティ支援のご相談からお声がけください。自分たちで運営してきた立場から、続く形をご提案します。