リファラル採用の仕組みづくり — 紹介したくなる状態から始まります

制度を作っても、紹介は出てこない
人材紹介にも広告にも費用がかかる。それなら知り合いを紹介してもらおう、と考えるのは自然な流れです。
ところが、たいてい出てきません。「誰かいい人いたら教えて」と言っても、何も起きない。そこで紹介制度を作り、報奨金を設定する。それでも増えない。
しかも医療・介護は、リファラルの母数が本来大きい業界です。
同じ資格を持つ知り合いが多い。専門学校や大学の同期がいる。前職の同僚が別の法人で働いている。転職も業界内で完結することが多いので、つながりが切れません。他業種と比べても、紹介が生まれやすい条件は揃っています。
それでも出てこないのなら、条件の問題ではなく、状態の問題だということです。
理由は単純で、紹介という行為は、報奨金では動かないからです。
考えてみると分かります。知り合いを職場に紹介するというのは、自分の信用を貸す行為です。その人が入って苦労したら、紹介した自分が責められる。関係が気まずくなる。数万円で引き受けるには、リスクが釣り合いません。
そして、もっと根本的な問題があります。自分の職場を、人に勧められる状態にあるか。
ここが満たされていなければ、制度をいくら整えても紹介は出てきません。むしろ紹介制度の導入自体が「うちは人が来ないんだな」というシグナルとして受け取られることさえあります。
「伝えたくなる」は、2つに分解できる
では、どういう状態なら紹介が生まれるのか。2つに分けて考えると整理できます。
1つは、自分がここにいて良かったと思っていること。これは前提です。不満を抱えている人が、知り合いを誘うことはありません。
もう1つが見落とされがちで、こちらのほうが効きます。紹介した相手に、申し訳なくならない自信があるかどうか。
自分は満足していても、「あの人が入ったらどうだろう」と考えたときに不安が残ることがあります。新人への教育体制が整っていない。人によって当たりが強い。忙しい時期に放置されるかもしれない。自分は慣れたから大丈夫でも、新しく入る人には厳しい——そう思っていたら、誰も紹介しません。
つまり紹介が出てこない職場は、スタッフが「入ってくる人の目線」で職場を見ているということです。それは冷めているのではなく、むしろ誠実な判断です。
だから最初にやることは、制度づくりではありません。入ってくる人が最初の3ヶ月をどう過ごすことになるかを見ることです。
初日に誰が説明するのか決まっているか。分からないことを聞ける相手が決まっているか。1ヶ月目に何ができるようになっていればいいのか、本人に伝わるか。この3つが答えられない状態だと、紹介は出てきません。
逆に言えば、ここが整っている職場では、特別な制度がなくても紹介が生まれます。スタッフが「うちなら大丈夫」と思えているからです。そこに自信が持てるようになれば、紹介は自然に出やすくなります。
「誰かいい人」では、誰も浮かばない
状態が整ったうえで、次に効くのが頼み方です。
「誰かいい人いたら紹介して」——この言い方では、何も起きません。範囲が広すぎて、誰も思い浮かばないからです。
当社がやっているのは逆で、採用したい人をできる限り具体化してから声をかけるという方法です。
「訪問看護の経験がある人」ではなく、「病棟から在宅に移りたいと思っているけど、一歩踏み出せていない人」。「明るい人」ではなく、「1人で判断する場面が多いので、自分で決められる人」。ここまで具体化すると、聞いた側の頭に顔が浮かびます。
そして具体的であるほど、紹介する側のリスクも下がります。「こういう人を探している」と言われて心当たりがあるなら、その人は合う可能性が高い。外れる確率が下がるから、紹介しやすくなる。
この具体化は、求める人物像をチームから逆算するという作業とまったく同じものです。採用の入口が何であっても、人物像が具体になっていないと動きません。
あわせて、声をかけるタイミングも大事です。欠員が出てから「誰かいませんか」では遅い。普段から「こういう人がいたら会いたい」と言い続けているほうが、思い出してもらえます。
そして、紹介したあとの設計が抜けている職場が多いと感じます。
紹介した人は、その後ずっと気にしています。選考がどうなったか、入職後どうしているか。何も伝えられないまま数週間が過ぎると、「余計なことをしたかもしれない」という気持ちになる。次はもう紹介しません。
だから結果は必ず伝えることです。採用に至らなかった場合も同じで、「今回はご縁がありませんでしたが、声をかけてくれてありがとう」と伝わっているかどうかで、次があるかが決まります。
断る場合の伝え方も考えておく必要があります。紹介者に理由を細かく伝えるのは避けたほうがいい——本人のプライバシーに関わりますし、紹介者が「自分の見る目がなかった」と受け取ると、関係に響きます。「今回は求めている経験と合わなかった」程度で十分です。
インセンティブには、法律の制約があります
紹介制度に報奨金を設ける場合、知っておくべき法律があります。
職業安定法第40条は、労働者の募集を行う者が、募集に従事する被用者に対して報酬を与えることを原則として禁じています。例外は2つで、「賃金、給料その他これらに準ずるもの」として支払う場合と、厚生労働大臣の許可を受けた有料職業紹介事業として認可された報酬の場合です。
実務的には前者になります。つまり就業規則や賃金規程に定めて、賃金の一部として支払う形にする必要があります。「紹介してくれてありがとう」と単発でお礼金を渡す、という運用は、この枠から外れます。
もうひとつ、金額にも注意が要ります。高額すぎると、受け取った社員が「業として人材紹介を行っている」とみなされ、許可が必要な事業(職業安定法第30条)に触れる可能性があります。人材紹介会社の手数料は理論年収の20〜35%程度が相場なので、それを大きく下回る水準に留めるのが安全です。
そして強制しないこと。紹介活動を業務として繰り返し求める形にすると、性質が変わってきます。
このあたりは自社だけで判断せず、就業規則を整えるときに社労士に確認するのが確実です。ここに書いたのは執筆時点の整理であって、規定そのものではありません。
なお、制度を作らないという選択もあります。報奨金がなくても紹介は起きますし、むしろ金銭が絡まないほうが、紹介する側の動機は素直です。制度は「あると動く」ものではなく、すでに起きていることを後押しするものだと考えておくほうが、期待を外しません。
紹介会社を使わない、という話ではありません
念のため書いておきます。リファラルを育てることと、人材紹介会社を使わないことは別の話です。
当社は人材紹介事業を持っていますし、紹介手数料の水準は妥当だと考えています。急ぎで人が要るとき、母集団がないとき、紹介会社は確実に効きます。使うべき場面はあります。
一方で、当社自身はグループを含めて、これまでの採用に人材紹介も広告費も使っていません。
取材メディアで話を聞き、コミュニティで関係が続き、そこから一緒に働く人が出てくる。採用のために始めたことではありませんが、結果としてそうなりました。何年も前に取材した人が、数年後に仲間になるということが実際に起きています。
これは社内のリファラルとは少し違いますが、構造は同じです。先に関係があって、相手のタイミングが来たときに声がかかる。違うのは、母数を社内に限っていないという点だけです。
大事なのは、どちらかに寄り切らないことだと思っています。紹介会社だけに頼ると費用が青天井になりますし、リファラルだけでは急な欠員に対応できません。両方が使える状態がいちばん強い。
そしてリファラルが機能し始めると、紹介会社を使う場面を選べるようになります。依存から選択に変わる。ここが本当の効果だと考えています。
明日、できること
制度づくりから始める必要はありません。
明日できることは、たった1つです。スタッフの誰か1人に、こう聞いてみてください。「うちに知り合いを誘うとしたら、何が気になりますか」。
「紹介してほしい」ではなく、「気になることを教えてほしい」と聞くのがポイントです。前者だと社交辞令が返ってきますが、後者だと本音が出ます。そこで出てきたものが、紹介が生まれない理由です。
教育体制、人間関係、忙しさ。答えは制度では解決しないものばかりだと思います。けれど、それが分かっているかどうかで打つ手が変わります。
そのうえで、探している人を1行で言えるようにしてください。「いい人」ではなく、具体的に。それをスタッフに伝えて、心当たりがあれば教えてほしいと言う。制度を作るのは、そのあとで十分です。
ひとつ、やらないほうがいいことも書いておきます。全体の場で「みんな紹介してね」と言うのは効きません。全員に向けた依頼は、誰の依頼でもなくなります。個別に、名前を呼んで頼む。そのほうが動きます。
そして期待しすぎないことです。リファラルは、月に何人という単位で動くものではありません。年に1人か2人、それも狙って出てくるものではない。それでも積み上がるのは、費用がかからず、辞めにくいからです。急ぎの欠員は別の手段で埋めながら、こちらは時間をかけて育てる。そういう位置づけが現実的だと思います。
もし、採用の入口をどう作るか一緒に考えたい場合は、採用・人材支援のご相談からお声がけください。
参考
- 職業安定法(第40条 報酬の供与の禁止/第30条 有料職業紹介事業の許可)
- 労働基準法(賃金の定義・就業規則の記載事項)
条文はe-Gov法令検索で確認できます。法令や解釈は改正されることがあるため、実際に制度を設ける際は最新の条文と、自院の就業規則・賃金規程に照らして社会保険労務士にご確認ください。本記事は執筆時点の整理であり、個別の運用の適否を判断するものではありません。