管理職の採用が難しいのは、条件では動かない人を口説くからです

条件を良くしても、動かない
管理職や役職者の募集は、一般スタッフの募集と同じようには進みません。
給与を上げる。役職手当を付ける。それでも反応がない。そもそも、いま管理職として働いている人は転職市場にあまり出てきません。必要とされている立場にいるので、動く理由がない。
そして動く人は、条件で動いているわけではないことが多い。給与だけが理由なら、もっと大きな法人に行けばいい。それでも中小規模の医療機関を選ぶ人がいるのは、別の理由があるからです。
だから求人票が「主任候補募集・経験3年以上・応相談」で止まっていると、そもそも土俵に乗れません。条件を並べる場所で戦っていないということです。
もうひとつ、この採用が難しい理由があります。候補者にとって、管理職になることが必ずしも魅力ではない。現場が好きで続けてきた人にとって、管理職は「やりたい仕事から離れること」でもあります。責任が増え、板挟みになり、残業も増える。それでも引き受ける理由が要ります。
医療・介護では、これがさらに厳しくなります。多くの現場で、管理職は現場も持っているからです。
師長も主任も、シフトに入りながらマネジメントをしています。管理業務のための時間が、就業時間の中に確保されていない。結果として、面談も採用も教育も、現場が終わってからの仕事になる。「管理職になると、いまの仕事に管理業務が上乗せされる」という構図です。
候補者はそれを知っています。同じ業界で働いてきたのだから、管理職がどれだけ大変かは見えている。だから「主任になりませんか」は、そのままでは魅力的な誘いになりません。
ビジョンだけでも、動かない
では何を語るか、となるとビジョンの話になります。うちはこういう医療を目指している、地域にこうありたい。
これは必要です。ただ、それだけでは足りません。
ビジョンは会社の話だからです。共感はできても、そこに自分がいる姿は見えない。「良いことを言っている法人だな」で終わってしまう。
候補者が知りたいのは、「自分がそこでどうなるか」です。何を任され、何を決められて、何年後にどうなっているのか。会社の話を、自分の話に接続できるかどうか。
そして多くの医療機関の管理職求人は、ここが書かれていません。役職名は書いてあるが、何を決められるのかが書いていない。主任になったら、シフトを自分で決められるのか。採用の可否に関われるのか。予算はどこまで動かせるのか。役職名だけでは、責任だけが増えるように見えます。
その先も同じです。主任の次は師長、その先は。書いていなければ、そこで止まって見える。「今より忙しくなるだけ」という印象は、こうして生まれます。
これは外部から採る場合だけの話ではありません。内部登用でも同じです。「そろそろ主任を」と声をかけて断られるとき、たいてい任される範囲とその先が見えていないからです。外から採るのが難しいなら、なおさら内側に示しておく必要があります。
用意できるのは、見取り図です
当社が役員を迎えたときも、ここは具体的に示しました。
役職。そして権限の範囲——何を自分の判断で決められるか。さらにその先のポジションまで。関連会社の役員という形も含めて、数年先の姿を話しました。
これは条件交渉ではありません。「あなたはここで、こういう仕事をすることになる」という見取り図です。
医療機関でも同じことができます。株式のような話がなくても、権限の範囲とその先は示せます。「シフト編成は主任の裁量です」「採用は最終面接に同席してもらいます」「3年後は分院の立ち上げを任せたい」。具体的であるほど、相手は自分の姿を思い描けます。
そして、見取り図と一緒に伝えたいものがもう1つあります。その仕事の何が面白いのかです。
管理職のやりがいは、プレイヤー時代とは質が違います。自分が成果を出すことから、人が育つことへ。自分が抜けても回る仕組みを作ること、後輩が自分より上手くやるようになること。それが面白いと感じられるかどうかが、続くかどうかを分けます。
ここを言葉にしていない求人が、ほとんどだと思います。「マネジメント経験を積めます」では、面白さは伝わりません。「自分が現場に立たなくても、チームが回るようになる」「教えた人が、教える側になっていく」。そういう具体で語れると、責任の重さではなく、仕事の中身の話になります。
そして、この作業には副次的な効果があります。書こうとすると、自分たちが何を任せる気なのかがはっきりする。曖昧なまま採用すると、入職後に「そこまでは任せていない」という衝突が起きます。採用の段階で言語化しておくと、その齟齬が減ります。
理念や目指す場所が組織の中で揃っているかという話とも繋がります。揃っていない組織では、そもそも「何を任せるか」が決まりません。
それでも、決め手は人とタイミングでした
ここからが本題です。見取り図を示したから決まった、のではありませんでした。
後から本人に聞いた話では、決め手になったのは代表である私の熱量や誠意、仲間との接し方、仕事への取り組み方を見ての判断だったそうです。条件でも、役職でも、事業計画でもない。
そしてもうひとつがタイミングでした。彼自身が人生の中で「何か一旗あげたい」と考えていた時期と重なった。今だった、ということです。
これは、正直に書いておくべきことだと思っています。用意したものが直接の決め手になったわけではない。
ただ、用意していなければ、選ばれなかったとも思います。熱量に共感しても、その先が何も見えなければ、人は動きません。タイミングが来ていても、受け皿がなければ通り過ぎる。見取り図は、決め手ではなく前提条件でした。
だから両方が要ります。用意できるものは用意する。そのうえで、最後は人とタイミングに委ねる。この順序だと思っています。
熱量は、面接では作れない
もうひとつ、この経験から分かったことがあります。
熱量や誠意は、採用の場面では作れません。
面接で「私は本気です」と言っても伝わりません。伝わるのは、普段どう仕事をしているか、仲間とどう接しているかです。そしてそれは、面接の前から見られています。
つまり管理職の採用は、募集を出す前から始まっている。
これは厳しい話に聞こえるかもしれませんが、逆に言えば日々やっていることがそのまま採用力になるということでもあります。特別なことをする必要はない。スタッフへの接し方、約束を守るかどうか、困ったときにどう動くか。それを見ている人が、いつか候補者になります。
タイミングも同じです。相手のタイミングは、こちらでは作れません。できるのは、そのときに思い出してもらえる状態でいることだけです。接点を持ち続けているかどうかが、そこで効いてきます。
当社が支援に入った法人でも、同じ考え方でやりました。マネージャーの採用に苦戦していた法人で、月1回のセミナーを1年続けました。その場で採用の話はしません。1年で累計200名ほどが参加し、そこから面談につながっていきました。
遠回りに見えますが、管理職層に直接届く方法は、実はあまりありません。求人媒体には出てこない層なので、先に接点を作っておくしかない。そして接点があれば、相手のタイミングが来たときに声がかかります。
見極めについても、ひとつだけ書いておきます。条件やスキルでは測れないものが効きます。当社の役員について言えば、会話のリズムが合うこと。そして、うちが大切にしていることを汲み取って動いてくれること。経歴書には出てこない部分ですが、一緒に働き続けられるかは、ここで決まると感じています。
明日、できること
大がかりな採用計画から始める必要はありません。
明日できることは、たった1つです。「主任になったら、何を自分で決められるか」を3つ書き出してください。
書けなければ、それが現在地です。任せる範囲が決まっていない状態で募集をかけているということなので、応募者から見れば「よく分からない役職」になります。
書けたら、それを求人票に入れてください。「主任候補」の一行を、「シフト編成と教育計画は主任の裁量です」に変えるだけで、伝わる情報がまったく変わります。
そして、この3つはいま在籍している管理職にも伝わっていないことが多いです。求人票を直す作業は、社内の役割を明確にする作業でもあります。
そしてもう1つ。いま思い浮かぶ「いつか来てほしい人」を、1人挙げてみてください。社内の候補でも、他院で知り合った人でも構いません。その人と、この半年で何回話しましたか。
管理職の採用は、募集をかけてから始まるものではありません。思い出してもらえる状態でいることが、いちばん時間のかかる準備です。
半年で1回も話していないなら、次に会う機会を1つ作ってください。食事でも、勉強会への誘いでも構いません。採用の話はしなくていい。それどころか、しないほうがいいと思います。その人のタイミングが来たときに、真っ先に浮かぶ相手でいること。準備というのは、それだけのことです。
なお、そもそもどういう人物像を求めるかが定まっていない場合は、チームから逆算して決めるところから始めるほうが早いと思います。
もし、管理職の採用設計や、任せる範囲の言語化を一緒に考えたい場合は、採用・人材支援のご相談からお声がけください。