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例外を1つ認めたら、なぜ職場に不公平感が広がるのか

例外を1つ認めたら、なぜ職場に不公平感が広がるのか

1人に認めたはずのことが、全員に効いてくる

あるスタッフから、急に有給を使いたいと相談がありました。事情を聞けば納得できる内容で、シフトも何とか調整できる。だから認めました。その判断自体は、間違っていなかったと思います。

けれど、そのあと職場の空気が変わりました。他のスタッフに不満が溜まっていったのです。

管理者の側からすると、意外に感じます。1人の事情に配慮しただけで、他の人に何かを課したわけではない。むしろ「柔軟に対応する職場」として、良く受け取られてもいいはずです。

ここで起きているズレは、見えているものの違いです。

しかも、この不満はまず言葉になりません。「不公平だと思います」と言ってくる人は、ほとんどいない。代わりに、空気として現れます。返事が少し短くなる、雑談が減る、シフトの相談に前ほど応じてもらえなくなる。管理者が気づいたときには、しばらく時間が経っていることが多いと思います。

管理者は事情と判断のプロセスを見ています。相談を受け、内容を聞き、シフトを調整し、認めた。一連の流れがある。

一方、他のスタッフに見えているのは結果だけです。「あの人は急に休んだ」。それだけ。事情は共有されていないし、共有できないことも多い。

そして人は、見えない部分を自分で埋めます。「なんで あの人だけ」「自分が同じことを言ったら、どうせ断られる」。説明されていない空白に、それぞれの解釈が入り込みます。

さらに、医療・介護の職場にはもうひとつ強く効く事情があります。

シフト制の職場では、1人が休めば、その穴を誰かが埋めます。急な有給を認めるということは、他の誰かが予定を変える、あるいは1人少ない体制で回すということです。一般的な職場なら「あの人が休んだ」で終わる話が、ここでは自分の負担に直結する。

つまり、不公平感が生まれているだけではありません。実際に負担が移っている。だから「気持ちの問題」として扱うと、こじれます。埋めた人にとっては、感情ではなく事実の話です。

2つの歪みが、同時に起きている

このとき、性質の違う2つのことが起きています。

1つは、時間の方向にずれること。「一度認められたのだから、次も認められるはずだ」。本人がそう思うこともあれば、見ていた人がそう受け取ることもあります。例外が前例になるという現象です。

もう1つは、範囲の方向にずれること。「急な休みが認められるなら、遅刻も大目に見てもらえるはずだ」「あの人が許されるなら、自分の事情も同じくらい重いはずだ」。認めた1点から、周辺へ解釈が広がっていく。

この2つは似て見えますが、別のものです。前者は「次」の話、後者は「他」の話。そして防ぎ方も違います。前者には「今回はこういう条件だから」という限定が要り、後者には「これは認めるが、これは変わらない」という線引きが要ります。

多くの場合、どちらも言われていません。「認めた」という事実だけが残るので、両方向に広がります。

原因は甘さではなく、説明のなさです

ここで「やはり例外を認めるべきではない」という結論に向かいそうになりますが、それは違うと考えています。

例外を一切認めない組織は、事情のある人から辞めていきます。子どもの急な発熱、家族の介護、自分の体調。医療・介護の現場は、そうした事情を抱えた人が支えています。融通が利かない職場は、続けられる人を選んでしまう。

そして、その先に起きることも読めます。制度上は公平でも、実際に働き続けられるのは事情のない人だけになる。経験を積んだスタッフが、ライフステージの変化とともに抜けていく。採用は続けているのに、経験年数の平均が下がり続ける職場は、この状態にあることが多いと思います。

しかも、ルールを厳格にしても不満は消えません。今度は「あの人の事情は考慮されないのか」という声が出ます。どちらに振っても、説明がなければ不満は残る。振り幅の問題ではないということです。

では何が問題だったのか。認めたこと自体ではなく、認めた理由が伝わっていないことです。

人は判断の理由が示されないと、自分で理由を推測します。そして推測は、たいてい自分に不利な方向に働く。「特別扱いされている」「自分は大事にされていない」。悪意があるわけではなく、情報がないところを埋めた結果です。

つまりこれは、管理者の甘さの問題でも、スタッフの心の狭さの問題でもありません。説明がないところに、解釈が入り込むという構造の問題です。

何を伝えれば、広がらずに済むのか

伝えるべきことは、3つに整理できます。

理由。なぜ今回は認めたのか。範囲。何が例外で、何は変わらないのか。期限。いつまでの話なのか、次はどう扱うのか。

この3つがあると、受け取る側は推測しなくて済みます。「今回はこういう事情で、シフトがこう調整できたから認めた。ルール自体は変わらない」——これだけで、前例化も波及もかなり抑えられます。

タイミングも大事です。不満が出てから説明すると、どれだけ内容が正しくても言い訳に聞こえます。「後から取り繕っている」と受け取られたら、説明はむしろ逆効果になる。

だから、認めたその場で言うのが基本です。本人に伝えるときに、周囲にどう伝えるかまで一緒に決めておく。「このことは、みんなにはこう伝えますね」と本人に確認しておけば、後から言いにくくなることもありません。

ただ、ここには現実的な壁があります。個人の事情は、本人の許可なく共有できません。家族の病気や自分の体調は、まさに知られたくない類のことです。

その場合は、事情の中身ではなく、判断の枠組みを伝えるという方法があります。「詳しい事情は本人のことなので言えませんが、こういう基準で判断しました」「同じ状況なら、誰に対しても同じ判断をします」。中身を明かさずに、恣意的でないことは伝えられます。

そして本当は、個別に説明するより先にやることがあります。どういう場合に例外を認めるのかを、あらかじめ決めておくことです。すべてを事前に決めるのは無理でも、判断の軸だけでも共有されていれば、その都度の説明はずっと軽くなります。

たとえば「家族の急病は認める」「本人の体調不良は認める」「私用は原則として事前申請」といった程度でも構いません。線がどこにあるかが分かれば、越えたかどうかも分かる。線がないと、すべての判断が管理者の裁量に見えます。

その軸は、組織が何を大事にしているかから出てきます。理念が判断の上流にあるというのは、こういう場面で効いてきます。「うちは働き続けられることを大事にしているから、こういう事情には対応する」と言えるなら、それは特別扱いではなく方針になります。

この現象は、階層をまたいで繰り返される

もうひとつ、見落としやすいことがあります。

同じことが、組織の上の層でも起きています。

経営者が管理者の1人に何かを認めれば、他の管理者は「次は自分も」と思います。管理者が現場の1人に認めれば、現場に同じ波及が起きる。構造がそっくりそのまま、階層ごとに再生産されます。

そして厄介なのは、上で起きたことが下に伝わることです。ある管理者が特別な扱いを受けていると、その部署のスタッフにも空気として伝わる。直接説明された人がいないまま、不公平感だけが広がっていきます。

逆に、上が説明する習慣を持っている組織は、下でも同じことが起きます。経営者が「今回はこういう理由で」と伝えるのを見ていれば、管理者も同じように伝えるようになる。説明する文化は、教えるより先に、見せるほうが早いと思っています。

だから、経営層が管理者に何かを認めるときも、同じ3つを伝える必要があります。理由、範囲、期限。「上のことだから現場には関係ない」ということは、あまりありません。

こうして溜まった不公平感は、辞める理由として言葉にされません。「一身上の都合」の下に沈みます。離職の本当の理由が見えにくいのは、こういう積み重ねが表に出ないからでもあります。

明日、できること

大がかりなルールづくりから始める必要はありません。

明日できることは、たった1つです。直近で認めた例外を、1つ思い出してください。

そして、こう自問してみてください。「あれを認めた理由を、他のスタッフは知っているだろうか」。

知らないはずです。ほとんどの場合、説明していません。それが分かっただけで十分です。過ぎたことを今から説明する必要はありません。

次からは、認めたときに一言添える。それだけです。「今回はこういう理由で認めました。ルールが変わったわけではありません」。この2文で、前例化と波及の両方に手が届きます。

伝える相手は、その場にいる人だけで構いません。全体周知にすると大ごとになりますし、本人にも気まずさが残ります。シフトを代わった人、負担が移った人。まずはその人たちに一言あるかどうかで、受け取られ方はかなり変わります。

もう1つ余裕があれば、よくある相談を3つ挙げて、どう判断するかを先に決めておいてください。急な休み、シフトの交代、遅刻の扱い。その都度考えるから、判断がぶれます。先に決まっていれば、説明も短く済みます。

完璧に決める必要はありません。「だいたいこう」で十分です。運用しながら例外が出てきたら、そのときにまた考えればいい。大事なのは、管理者の頭の中にしかない基準を、外に出しておくことです。

もし、判断の基準づくりや、管理者が迷わない仕組みを一緒に考えたい場合は、管理職育成のご相談からお声がけください。

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