TOPCOLUMN / 記事詳細

COLUMN

コラム

組織づくり

理念が浸透しないのは、掲げ方ではなく使い方の問題です

理念が浸透しないのは、掲げ方ではなく使い方の問題です

努力しているのに、足し算にならない組織

全員が真面目に働いているのに、なぜか前に進まない。そういう組織があります。

よく見ると、見ている先が違うのです。役員は事業を伸ばすことを見ている。管理者は現場が崩れないことを見ている。スタッフは今日を無事に終えることを見ている。それぞれの立場では、どれも正しい。

けれど方向が違うので、力が足し算になりません。役員が新しい取り組みを始めると、管理者には「現場の負担が増える」と映る。管理者が安全のためにルールを増やすと、スタッフには「面倒が増えた」と映る。誰も間違っていないのに、噛み合わない。

これが「組織ができない」「チームがバラバラ」と言われる状態の中身だと思っています。人の問題ではなく、目指す場所が共有されていない問題です。

なぜずれるのか。立場によって、見ている時間の長さが違うからだと思います。

役員が考えているのは数年先です。この地域で何年後にどうなっていたいか、そのために今年何をするか。管理者が見ているのは数ヶ月先——今期のシフトが回るか、来月の新人が定着するか。そして現場が見ているのは今日です。目の前の患者さんを、今日無事に返せるか。

この3つは、どれも組織に必要な視点です。ただ、時間の単位が違うと、同じ出来事の意味が変わります。役員から見れば「将来のための投資」でも、現場から見れば「今日の負担」になる。どちらも事実で、どちらも間違っていない。

そして厄介なのは、ずれている自覚が誰にもないことです。経営者は「何度も言っている」と思っている。管理者は「聞いた気がする」くらい。スタッフは「そんな話あったかな」。同じ会議に出ていても、残っているものが違う。

作ることと、揃うことは別

ここで多くの組織が取る手が、理念やMVVを作ることです。

ただ、理念がない組織のほうが少ないというのが実感です。ホームページには載っているし、パンフレットにも書いてある。玄関にも掲げてある。問題は、作った時点で終わっていることです。

朝礼で唱和している組織もあります。それでも揃わない。唱和は「知っている」を作りますが、「使っている」には届かないからです。覚えていることと、判断に使えることは別の能力です。

もうひとつよくあるのが、抽象度が高すぎて使えないという状態です。「地域に信頼される医療を」「患者様に寄り添うケアを」。反対する人はいませんが、反対できない言葉は、判断の材料にもなりません。明日のシフトをどう組むか、この患者さんにどこまで対応するか、そういう場面で使えないなら、掲げていないのとあまり変わらない。

医療・介護には、さらに条件の悪さがあります。

シフト制なので、全員が同じ場にいる機会がほとんどありません。朝礼に出られるのはその日の日勤だけ。夜勤専従の人には別のルートで届けないと、何も伝わっていないことになります。全体会議を開いても、参加できるのは半分です。

中途入職が多いのも効いています。理念について聞く機会が入職時のオリエンテーション1回きり、という組織は珍しくありません。しかも、いちばん忙しくて余裕のないタイミングです。覚えているはずがない。

そして多職種です。看護師、リハビリ職、事務、介護職。同じ言葉を聞いても、自分の仕事にどう関係するかは職種ごとに違います。一度伝えれば伝わる、という前提が成り立たない環境だと考えたほうが現実に合っています。

「揃っている」とは、どういう状態か

では、揃っているとはどういう状態でしょうか。

覚えているかどうかではありません。判断に使われているかどうかです。

組織で日々起きているのは、判断の連続です。例外を認めるかどうか。誰の何を評価するか。2つの仕事のどちらを先にやるか。そのとき、迷った人が立ち返る場所があるか。あるなら揃っています。ないなら、その場の空気や、声の大きい人の意見で決まります。

たとえば、あるスタッフの遅刻を1回だけ許すかどうか。ここに基準がなければ、管理者の気分で決まります。そして一度許すと「次も許される」「他のことも許される」と受け取られていく。目指す場所が共有されていれば、「なぜ今回は認めたのか」を説明できるので、そこまで広がりません。

評価も同じです。何を成果とするかは、目指す場所から逆算されます。それが決まっていないと、「頑張っているのに評価されない」というズレが生まれます。スタッフは自分なりの努力をしているけれど、その方向が組織の向きと違っている。本人には見えないズレです。

つまり理念は、判断の上流にあります。ここが決まっていないまま、評価制度を入れたり、ルールを増やしたりしても、噛み合いません。順序が逆だからです。

当社がやっていること

当社にもバリューがあります。ただ、戒律としては運用していません。

日常のすべてをバリューで判断していたら仕事になりませんし、そういう使い方をすると形骸化します。重要な局面で立ち返る行動ルール、という位置づけにしています。迷ったとき、意見が割れたとき、前例のない判断をするとき。そこで使えれば十分だと考えています。

そして、抽象語のままにしないようにしています。

たとえば当社のバリューのひとつには、「違和感やズレは48時間以内に着手する」という運用ルールを添えています。「対話を大事にする」だけだと、何をすればいいのか分かりません。48時間という数字が入ると、行動になります。気になったことを1週間持ち越さない、という具体まで落ちて初めて、判断の材料になります。

もうひとつ意識しているのが、接続です。

先日、社内でビジョン研修を実施しました。全員が集まれる機会が貴重なので、社員旅行の日程に組み込む形にしています。

2時間の枠で、会社の現在地とビジョンの共有に50分、個人ワークに20分、発表とディスカッションに30分。説明する時間より、各自が話す時間のほうが長い配分にしました。理念は聞いて覚えるものではなく、自分の言葉にして初めて残るからです。

個人ワークで書いてもらったことのひとつが、「自分の仕事とビジョンがどこで繋がるか」でした。理念を上から配るのではなく、各自が自分の仕事との接点を見つける。

同じ理念でも、接続の仕方は職種で変わります。「選べる状態をつくる」という言葉なら、現場職にとっては目の前の相手に選択肢を示すことかもしれない。事務職にとっては、必要な情報がすぐ取り出せる状態を整えることかもしれない。どちらも正しく、どちらも本人の言葉で見つけたものです。

この作業を本人にやってもらうかどうかが、分かれ目だと思っています。管理者が「あなたの仕事はこう繋がっている」と説明することもできますが、それは受け取るだけになる。自分で書いた接続は、忘れにくい。

ディスカッションにもルールを置きました。5つのうち2つが、この記事の話と直結します。「抽象語は具体的な行動に変換する」——「寄り添う」で止めず、何をすることなのかまで言う。そして「意見の違いではなく、その背景を確認する」——違いを正すのではなく、なぜそう考えたのかを聞く。

この2つを置くと、議論が「どちらが正しいか」ではなく「なぜそう見えているか」に向きます。立場が違えば見えているものが違う、という前提に戻れる。

揃えるとは、押し付けることではなく、接続させること。ここを取り違えると、理念は「上が言っていること」になって終わります。

揃えることと、同じ考えにさせることは違う

ひとつ、注意したいことがあります。

揃える=全員が同じ考えになる、ではありません。

目指す場所が同じなら、そこへの行き方は違っていい。むしろ違うほうが組織は強くなります。同じ発想の人しかいない組織は、同じ状況で全員が同時に詰まります。

目的が共有されていれば、手段の違いは議論になります。共有されていなければ、手段の違いは対立になる。「あの人のやり方は間違っている」という話は、たいてい目的がずれているときに起きます。

だから理念の共有は、多様性をなくすためではなく、多様性を機能させるためにあります。ここを間違えて「うちの理念に合わない人は」という使い方をすると、同調圧力になり、率直な意見が出なくなります。理念が人を選別する道具になった組織は、たいてい風通しが悪くなる。

もうひとつ。理念のズレは、静かに離職につながります。日々の判断に納得できない状態が続くと、人は説明できない疲れ方をする。辞める理由として言葉にされないので、離職の本当の理由としては見えにくい部分です。

明日、できること

大がかりな取り組みから始める必要はありません。

明日できることは、たった1つです。役員・管理者・スタッフの3人に、別々に同じ質問をしてみてください。

「うちがいちばん大事にしていることは何ですか」

それだけです。答えが揃っていれば、少なくとも土台はあります。バラバラなら、それが今の現在地です。がっかりする必要はありません。ずれていることが分かっただけで、前に進んでいます。多くの組織は、ずれていることに気づかないまま何年も過ごします。

そのうえで、次にやることも1つだけ挙げます。掲げている言葉のうち、1つを行動に翻訳してみてください。「寄り添う」なら、具体的に何をすることなのか。「チームワーク」なら、どういう場面で何をするのか。1つでいいので、行動の形にする。全部を一度にやろうとすると止まります。

そこまで進んだら、あとは判断の場面で使うだけです。例外を認めるとき、評価を伝えるとき、優先順位を決めるとき。「うちはこれを大事にしているから、こうする」と言えるようになれば、理念は機能し始めます。

揃っているかどうかは、掲示物の有無では測れません。判断に迷った人が、何を見て決めているか。そこに現れます。

そして一度揃えれば終わり、でもありません。人が入れ替われば、また揃え直しになります。中途入職が続く組織では、揃える作業そのものが日常業務だと考えたほうが実態に合います。年に1回の全体会議で唱和して終わり、では追いつかない。

面談のたびに1つ確認する、新人が入るたびに接続を書いてもらう、判断に迷った場面を持ち寄る。小さく、続く形にしておくことが、結局いちばん効きます。

もし、理念の言語化や、それを日々の判断に落とすところを一緒に考えたい場合は、組織づくりのご相談からお声がけください。当社自身も同じことをやりながら、支援先の医療機関と取り組んでいる領域です。

CONTACT

組織のこと、キャリアのこと。まずはお聞かせください。

コラムで触れたテーマの具体的なご相談も歓迎です。組織・採用・Web・キャリアのお困りごとは、お気軽にお問い合わせください。

GET IN TOUCH