管理者育成でつまずくのは役割を渡した後

管理者育成は、役割を渡したところから始まります
管理者育成は、役割を渡したところから始まります。ところが多くの職場では、渡した時点で終わっています。 辞令を出し、肩書きを変え、朝礼で紹介して、そこまでで手が離れます。
当社は以前、管理者を外から採るのが難しい理由を書いたときに、こう書きました。「師長も主任も、シフトに入りながらマネジメントをしています。管理業務のための時間が、就業時間の中に確保されていない」。あの記事では、これを採用が難しい理由として挙げました。外から人を呼ぶときの障害としてです。
同じことが、中から育てるときにも効きます。時間が確保されていない人に役割だけを渡すと、渡した側から何も見えなくなります。 本人が何に困っているのか、どこで止まっているのかが、現場が終わったあとの時間に沈むからです。報告は上がってきます。ただ、報告に載るのは結果だけです。
そして、うまくいっていないことに気づくのは、たいてい誰かが辞めたあとです。管理者本人が辞めることもあれば、その下の人が先に抜けることもあります。どちらの場合も、渡してから気づくまでの間に、何か月かの空白があります。その間、本人は1人で考えています。聞ける相手が決まっていないので、自分のやり方が合っているのかどうかも分かりません。
この記事では、渡したあとに何をするかを書きます。当社がグループの事業で実際にやっていることと、うまくいかなかったことの両方です。制度の話ではありません。明日から動かせる範囲の話に絞ります。
何を任せたのか、本人と言葉が合っていますか
役割を言葉にして渡していても、受け取った側が同じ意味で受け取っているとは限りません。問題は渡したかどうかではなく、合っているかどうかです。
医療・介護の事業では、肩書きが重なります。代表取締役。管理者。施設長。取締役。1人が2つ3つを兼ねることも珍しくありません。 そうなると「あなたは管理者です」と言っただけでは、何を求められているのかが決まりません。制度上の管理者としての責任なのか、現場のシフトを回すことなのか、数字まで持つのか。肩書きは同じでも、事業所によって中身が違います。
当社では、いま何が求められているのかを、そのつど言葉にして伝えています。 そして伝えたあとに、どう受け取ったかを確かめます。ここを飛ばすと、半年後に「そこまでやるとは思っていなかった」が出てきます。そのときにはもう、任せた側も任された側も、それぞれの理解で動いたあとです。
この違いは、外から来た人ほど分かりません。前の職場の管理者像をそのまま持ってきて、ここでも同じだろうと考えます。悪気があるわけではなく、ほかに手がかりがないからです。
伝え方は、大事なところほど口頭にしています。 文書にもしますが、文書だけだと抜けるものがあるからです。どのくらい慎重にやってほしいのか。どこまでは自分で決めていいのか。この種の加減は、書き言葉では角が取れます。読んだ側は、受け取りやすいほうに読みます。悪意ではなく、書いてあることの幅が広いからです。
口頭は記録に残らないという弱点があるので、両方やるのが実際のところです。文書で範囲を示し、口頭で加減を伝える。そのうえで、受け取り方を本人の言葉で言ってもらう。ここまでで1セットだと考えています。
言ってもらうと、たいてい少しずれています。ずれていること自体は問題ではありません。その場で直せるからです。問題になるのは、ずれたまま半年動くことのほうです。
任せるというのは、判断の材料を一緒に見ることです
任せるは、放すことではありません。判断してもらうということです。 そして判断には材料が要ります。
当社のグループには、訪問看護の事業があります。そこの役員とは、定期的に実際の数字を一緒に見ています。 財務の資料を開いて、お金がどう入ってどう出ていくかを、その場で追います。説明を聞いてもらうのではなく、本人に触ってもらう形です。手元で動かすと、どの数字とどの数字がつながっているかが分かります。
なぜ数字かというと、任せた範囲が数字に表れるからです。 人を1人採ると何が動くか。訪問の件数が減ると、どこに、どれくらいの幅で効くのか。それが見えていない人に「あなたの判断で決めてください」と言っても、決められません。決められないので、結局こちらに聞きに来ます。聞きに来るのは本人の問題ではなく、材料を渡していない側の問題です。
もう1つ、チームと一般スタッフのマネジメントの様子も、定期的に見ています。 報告を聞くだけにしないという意味です。どういう場面で、どんな言葉を使っているか。リーダーの言葉が変わった事業所で離職が止まることは別の記事に書きましたが、その言葉は報告書には出てきません。「問題ありません」という報告の下で、言い方だけが指示に戻っていることがあります。
見る頻度は、毎日である必要はありません。決まった間隔で、決まった形で見ることのほうが効きます。 不定期に覗くと、見られている側は身構えます。身構えると、出てくるのは整った報告です。整った報告からは、困っているところが落ちます。
間隔を決めておくと、その回に向けて本人が材料を用意するようになります。用意する過程が、いちばん育ちます。もう1つ、数字を見る場は詰める場にしないほうがうまくいきます。説明を求める形になると、次からは説明できる数字だけが並ぶからです。分からないところを分からないまま持ってきてもらうほうが、材料としては役に立ちます。
最初に出てくるのは、任せられないという症状です
渡したあとに最初に出てくるのは、任された本人が、その下の人に任せられないという症状です。自分が任される側になったのに、自分から下へは渡せない。
当社で時間がかかったのも、ここでした。出てくる形は、だいたい4つに分かれます。
- 任せられない — 自分でやったほうが速いので、自分でやる。そして手が埋まる
- 相談ができない — 上に聞くと、できないと思われる気がする。だから抱える
- 部下にどう話せばいいか分からない — 指示は出せるが、それ以上の言葉が出てこない
- 受け取った言葉を、どう解釈していいか分からない — 部下や同僚から言われたことを、どこまで真に受けるか決められない
4つとも、知識では埋まりません。 研修で「権限委譲が大切です」と教えても、明日から任せられるようにはなりません。どれもその場面が来たときに、一緒に考えるしかない種類のものです。だから、渡したあとに時間が要ります。
1つめは、短期的には正しい判断に見えます。実際、その日の仕事は速く終わります。ただ、渡していない仕事は、いつまでも自分の仕事のままです。手が埋まったまま次の判断が来るので、そこでもまた自分でやることになります。
3つめと4つめは、話し方の問題に見えて、実際には誰がいつ言うかの問題であることが多い。同じ内容でも、誰が言うか、いつ言うかで結果が変わります。新任の管理者は、ここの見当がつかないまま、内容だけを正しく伝えようとします。内容が正しいので、伝わらない理由も分かりません。
2つめの「相談ができない」は、任せた側が作っていることがあります。相談に来たときの反応が速すぎると、相談は「借りを作ること」になります。こちらが即答すれば、その場は片付きます。ただ、次からは聞きにくくなる。答えを渡す前に、どう考えたかを先に聞くだけで、相談の意味が変わります。
管理者育成でつまずくのは、たいてい伝えた側です
当社もうまくいっているわけではありません。任せたつもりで、期待が届いていなかったことがあります。
こちらは渡したと思っている。相手は受け取っていない。このズレは、渡した直後には出てきません。 出てくるのは、判断が必要な場面が来たときです。そこで初めて「そこは自分が決めるところだと思っていなかった」と分かります。日常が回っている間は、誰も困らないので表に出ません。
原因を相手の側に置くのは簡単です。ただ、当社の場合、振り返ると自分の伝え方と引き込み方のほうに原因がありました。 何を期待しているのかを、こちらが十分に言葉にできていなかった。引き受けてもらう前の段階で、話す量が足りていなかった。役割の説明はしても、なぜその人に頼みたいのかを言っていなかったことがあります。
訪問看護は、看護師や理学療法士という人で成り立つ事業です。設備でも仕組みでもなく、人が動かしている。だから、人と向き合うところは、当社もまだ勉強している途中です。これは当社の範囲で起きたことで、件数を数えて一般化できるものではありません。
もう1つ書いておくと、このズレは本人からは見えません。 期待との差は、期待した側にしか分からないからです。本人は指示どおりにやっているつもりでいます。だから「言えば分かるはず」は成り立たない。定期的に見る時間が要る、という話にここで戻ります。その時間は、進み具合を確認するためのものではありません。期待がずれていないかを確かめるためのものです。
明日、できること
新しい制度は要りません。決めるのは1つだけです。
いま管理者を任せている人と、次にいつ話すかを決めてください。 カレンダーに日付を入れるだけで構いません。30分で足ります。
そのうえで、その場で見るものを2つ決めます。
- 数字を1つ — その人の判断が効く範囲のもの。売上でも、訪問件数でも、稼働率でもいい
- 場面を1つ — この1か月で、下の人に何かを伝えた場面。何と言ったかまで聞く
どちらも、報告を受けるのではなく一緒に見てください。 報告は整えられます。整える過程で、いちばん困っているところが落ちます。落ちたところにしか、次の一手はありません。
1回やってみると、渡した役割のどこが伝わっていなかったかが見えます。見えたらその場で言い直せばいい。半年後に気づくより、はるかに安く済みます。
2つのうち片方だけでも構いません。大事なのは、次にいつ話すかが決まっていることです。決まっていないと、次に話すのは何か起きたときになります。何か起きてからの話は、たいてい確認か叱責になります。
役割の決め方から育て方まで、外から見る目を入れたいときは、当社の支援もご検討ください。最初にうかがうのは、いま何を任せているかです。